蝶ビトのヴァイオリン弾き
学校の音楽室。
アワはひとり、ヴァイオリンを弾いている。
そこに、手のりサイズのコアラみたいな小悪魔コアガがやって来る。
次元がゆがみ、そこから巻き角を頭に持った美少女が現れる。
「ここかぁ~♪」
アワの腕前に、聞き入りはじめた美少女は、背中の羽根を広げた。
コアガの耳の羽は悪魔のものだが、美しく開いた彼女の背中の羽根は蝶だ。
演奏が終わり、アワが笑う。
「コアガが言っていた悪魔になりたいお嬢さん?」
「私の姿が見えるのかっ?」
「見えてるよ」
「怖くはないのか?」
「悪魔になりたいお嬢さんが、何を言ってるの?」
「それもそうだ。早く悪魔にならないと、お父上が許された運命の殿方に会えない」
「ほーう・・・」
「と、ゆうことで、悪魔の契約をしないか?魂をくれ」
「いやー・・・ちょっと、むり」
美少女がコアガを見る。
「なんて言ってるの?」
「《すいません、いまいち分かりません》」
そこに魔法の蝶が飛んできて、カーテンが風に揺れる。
美少女がぼやく。
「お母様のつかい・・・君は将来有望なヴァイオリン弾きなんだね。なんだかうらやましい」
「君、それなりの姿をしているから言ってあげる。自分らしさ大事にした方がいいよ」
「え?」
「さっき、嬉しそうに蝶の羽根を広げた時、君は可愛かったよ」
顔を真っ赤にして、美少女は異次元に逃げて行った。
お姫様ベッドに倒れこんだ美少女は泣きはじめる。
蝶ビトである美少女の母が、旦那である人型の悪魔に声をかける。
「あなた・・・」
「うむ」
まだ20代後半にしか見えない美男子が、美少女の父親、悪魔だ。
「娘よ、知らせねばならぬ」
「刻限はもうすぎました・・・わたしはもう、運命の殿方に会えないんだ」
「違うのよ」
人型の蝶である、小さな母親が言う。
「天は悪魔の血が入っていながら、優しさが性なあなたを認められた。今日あなたが出会ったのは、お父上が許した殿方なのよ」
いきおいよく起き上がった美少女は、ぽかんとしていた。
コアガが言う。
「《本当にお嬢さまが優しい性なのか、天がお調べになられたのです》」
「じゃあ・・・じゃあ、あのヴァイオリン弾きは・・・」
「運命の殿方なのよ」
「会いに行ってもよいぞ」
ベッドから飛び出し、鏡に飛び込んだ美少女を、アワは両手を広げて受け止めた。
「はぁい、僕の花嫁」
ー☆ー
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