短編ファンタジー小説【稲荷社の采配】
小学校六年生の夏休み、敷地の竹やぶに肝試しに遊びに行ったら、刃物を持った中年男に襲われかけた。
助けてくれた謎の男は、俺に「剣術を習いなさい」と静かに言った。
宵闇に、顔はぼんやりとしか印象がない。
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ーーーーー・・・
時は過ぎ、剣道部を辞めた俺は高校二年生。
家の蔵から日本刀を出してから、再度、何度も手元の指名手配書を見つめる。
敷地の稲荷社に挨拶をして、ペットボトルの水を飲む。
すでに竹やぶ越しの空は暗い。
いつの間にやら夜が来て、数日まともに眠っていなかったことを思い出す。
日本刀を抱きしめて座っていたが、どうやらそれで、死角になっていたらしい。
はぁはぁと興奮した息がなまぐさく聞こえ、こちらに気づくことなく通りすぎて行く。
「ねぇっ、誰かいるのっ?」
子供の声に俺は走りだし、刃物を振り上げる中年男を背中から日本刀で斬ると、血が飛沫き、指名手配犯はその場で倒れて絶命した。
へたりこんでいる男の子からは、月影に着物を着た人型が見えただけだと思う。
俺はなるべく冷静に言った。
「剣術を習いなさい」
刀についた血を、手配書でぬぐい、捨てたものがひらりと舞って、男の子はどうやら、手配期間の日付を見たようだった。
男の子は「戻りなさい」と言った俺に何度かうなずき、すぐに走り去った。
しばらくの間。
転がったライトが、足元を照らしている。
「なんの采配だと言うのですか・・・」
小学校六年生の俺を助けたのは、高校二年生になった、俺だった。
これから、どうなるのかは分からない。
異次元法的にだ。
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