短編小説「あなた」
外国からの船がやって来た。
そこから降りた男が向かったのは、
片田舎。
先祖の由来で気まぐれに訪れてみた
男が出会ったのは、
その里の女。
言葉はあまり通じないが、
ふたりは
すぐに惹かれあった。
男は名乗ろうとしなかった。
王族だったからだ。
見聞ならいざ知らず、
その里に
なにがしかの縁を感じて
気まぐれに寄った身の上。
停まった花に蝶が
名乗るわけにはいかないような
決まりごとでたくさんである。
期限が来て、
男は国に帰らねばならなくなった。
女が、最後かもしれないから名前を教えて、と泣きながら言った。
男は王宮のなまりで、
我は「あなた」だ、と答えた。
女は「あなた」と何度も言いながら、
出航する船を見送ったそうだ。
ー☆ー
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